【リレーエッセイ(トレーニー1)】キャンプは社会だった
芹田 洋志
私は3才前に佐賀キャンプに参加し、心理リハビリテイションとの付き合いは約45年になります。その全てを語り尽くすのは難しいのですが、私の人生にとって大切なことはキャンプから学んだと言っても過言ではありません。
20代後半の頃、やすらぎ荘でピュアネットキャンプというものを始めることとなりました。当時は全国的にほとんどのキャンプで保護者同伴が基本で、それはやすらぎ荘でも同じでした。しかし、私と同年代のトレーニーは既に日常生活では親に頼らず日々を過ごしていたり、親が高齢者になり体力面が低下するなどの状況の中、キャンプに参加したくてもできない人が増えていました。そんな中で、ボランティアの協力を得ながらトレーニー自らがキャンプの運営をすることで、保護者同伴でなくても参加できるキャンプを目指したもので、私は当時コアスタッフとして参加していました。SV・トレーナーは九州大学の全面協力の元、総合指導には成瀬先生にお越しいただいて、初回は1泊、翌年からは2泊、年に1度の重大イベントでした。
通常のキャンプでは、トレーニーは支援を受ける立場であり、多少の役割を担うとしてもそれはトレーナーや親の会などが作った舞台で踊っているに過ぎません。しかし、ピュアネットキャンプではその舞台づくり、すなわち資金づくりから先生方への依頼や参加者募集、事前準備、分担した本番の役割、決算と実績報告まで、全てをトレーニーの手で作り上げていきました。どこを切り取っても大変でしたが、特にキャンプ中は自分も訓練しながら役割の仕事をしていくのは若かったからできたことのように思います。そうして普段とは違う立場でキャンプに関わる中で、先生方から多くのサポートをいただくことで、普段のキャンプがどのように動いているのかを捉え直す機会にもなりました。特に、成瀬先生にはたくさんのことを教えていただきました。
例えば、やすらぎ荘では朝の会をプールサイドで行っていたのですが、班ごとに座れるようマットを敷く際に漫然と敷いていると、様子を見に来られた成瀬先生が「あそこのところに敷いたらだんだん陽が射すだろう。キミはそれでいいのか?」と。そう指摘されることで、メンバーへの配慮や先の見通し不足に気づかされるわけです。それは自分が担当チーフをしている時にとどまらず、別の係の仕事をしていても呼び止められて、同じ注意事項の後に「って、○○(担当チーフ)に言いなさい」と。その時は割と端的にスパッと言われるけど、スパッと言われたことをそのまま言ったら担当チーフが傷つくかもしれないと思うと、どう言えばいいか考えるわけです。そうしていろんな人に気持ちよく動いてもらうためのコミュニケーションもトレーニングをしてもらったと思います。これは一例ですが、キャンプのあらゆる場面で指導を受けている私たちを見てトレーナーの形がビックリされるほど、成瀬先生は役割に応じた立ち振る舞いを厳しく私たちにご指導下さいました。
その時に経験したことを思い返すと、キャンプは一つの社会であるということに気づかされるし、今の私の仕事にも活かされています。どうすればいいのか悩んだ時に「キャンプだったらどうするんだろう」と当てはめることでヒントを探すこともあります。大人になるときちんと指導してもらう機会はなくなっていくので、本当に貴重な経験だったと思うし、子どもの頃から心理リハビリテイションとの付き合いがあったからこそ得られた学びだと思います。
皆さんにとって、キャンプって何ですか?
※このリレーエッセイは、全国各地のトレーニー・トレーナー・保護者が徒然なるままに思いを綴っていきます。トレーニー、次は高嶋義之さんです。